「あ、掃除だったらあたしがやっとくから。凱斗、いいよ」
あたしは引き攣った笑顔でそう言った。
無理! こんな静かな教室で凱斗と二人っきりだなんて冗談じゃない!
なるたけ早めに、できれば今すぐ、凱斗に立ち去ってもらいたい!
なのに凱斗はあたしの顔をじっと見ていたかと思うと、教室の中に入り込んできてしまった。
「か、凱斗?」
「手伝う」
「え?」
「時間ないし、向坂ひとりじゃ大変だろ? 俺も手伝うから」
……いいってーーーーー!
と心の中で必死に叫んだけれど、凱斗はホウキを手に持ってサッサと掃除を始めてしまった。
ど、どうしよう。まさか正直に『出てけ』なんて言えないし。
親切で言ってくれているものを拒否するのも、気が引ける。
仕方なくあたしは覚悟を決めて、自分を振った相手と二人きりで掃除を始めた。
「…………」
「…………」
当然、会話なんてゼロ。
皮膚がヒリヒリするような、強烈な緊張感が漂っている。
お互い不自然なくらい視線を逸らし、背を向けたまま、黙々と手を動かすこの空気が痛い。
ああもう、なんなの? 傷口に塩をズリズリ擦り付けられるこの展開。泣けてくる。
沈黙が、静寂が重圧すぎるよ。
ミケくんお願い。このさいベートーヴェンの『交響曲第九番』あたりでも派手に歌ってください。
そう祈った瞬間……。


