生徒玄関に集まっている生徒たちが、ひとり残らずあたしたちに注目している。
女子生徒たちの興奮したキャアキャア声が聞こえたけれど、右の耳から左の耳へ通り抜けてしまった。
だって、それほど凱斗の姿が鮮やかすぎる。
ほかのすべては色の混じった絵の具みたいにぼんやり霞んで、その真ん中に凱斗の顔と傘の青色だけが、くっきりと鮮明に浮き上がっている。
それ以外の情報は、あたしの中から完全にシャットアウトされてしまった。
体中の血潮がいっせいに目覚めるような、鮮烈な息吹を感じる。
あたしの中で眠っていた蕾が大きく揺り動かされて、待ち構えていたように花開く。
ヤケドするほどの熱さが全身を駆け巡り、目も眩むような心の昂ぶりに翻弄されて、息もつけない。
あたしの心も、体も、世界のすべてはいま、凱斗によって埋めつくされていた。
「奏」
ポンッと肩を叩かれて、ハッと我に返った。
夢から醒めたように目をパチパチさせて、斜め後ろに立っている亜里沙の琥珀色の瞳を見る。
花びらのように微笑む唇が動いて、あたしに問いかけた。
「さあ、どうするの?」


