そうだ。入江さんも、中尾さんも、亜里沙も、なにも言えなかった。
自分のせいで他人を不幸にしたと自分を責めて、罪悪感に苛まれ、口を噤んだ。
世界の違う相手になにを言っても伝わらないし、通じ合えないから、黙り込んだ。
でもあたしは引っ込まないし、黙らないし、認めない。
こうして言わなきゃいけないことを言うんだ
亜里沙が、『自分はなにも言える立場にない』って言うんなら、代わりにあたしが言ってやる。
自分のためなら言えないかもしれないけど、亜里沙のためなら、あたしは言える。
「自分の不幸を亜里沙のせいにしないでよ!」
あたしに怒鳴りつけられたふたりは、見えない拳で殴りつけられたような顔をした。
グッと言葉に詰まって、不自然なくらい亜里沙からサッと視線を逸らす。
その姿はまるで、剥き出しの弱点を攻撃された小さな動物みたいに見えた。
それでもおじさんは、まだ威厳を保とうとするようにあたしに怒鳴ってくる。
「なにも事情を知らない子どもが、知った口をきくんじゃない!」
「知ってるよ!」
あたしも負けずに怒鳴り返した。
知っているんだ。ここにいるみんなが、濃霧の中で溺れている。
思いもよらず関わり合ってしまった世界の影に、いまにものみ込まれそうになって、必死に喘いでいる。


