「な……んで……?」
ようやく口から出た言葉を、あたしは鼻をすすり上げながら途中で飲み込んだ。
なんで言ってくれなかったの? そう聞くつもりで、わかってしまった。
だって言えるわけがないじゃないか。こんなこと。
事実が重ければ重いほど、根が深ければ深いほど、人は、なにも言えなくなってしまうんだ。
入江さんが、なにも言えずに逝ってしまったように。
中尾さんが、言えない傷を抱えていたように。
そうして亜里沙も苦悩を抱え込んだまま、あたしの前で笑っていた。
あたしを励まし、支えてくれていた。
まさかこんなこと、思いもよらないあたしを、なにも言わずにずっと守ってくれていた。
いま思えば、亜里沙があれほどあたしたちに、
『あんたたちに責任はない』
って言い続けていたのは、自分自身にもそう言い聞かせたかったんだね……。
「ねえ、泣かないでよ奏。あたしは大丈夫だから」
困ったように微笑む亜里沙にそう言われて、あたしの両目からドッと涙があふれ出た。
口元を覆う手から、抑えようにも抑えきれない嗚咽が漏れる。
喉がグツグツ鳴って、息が苦しくて、胸が張り裂けそうだ。
「うっ……。亜里沙……亜里沙ぁ……」
……ああ、本当になにもかも、思いもしないことばかり。
濃い霧に包まれたこの世界は、こんなにも不確かで、恐ろしい。
なのに道も見えない恐怖に怯えながら、生きていかなければならないなんて。
大切な人が目の前で、悲しみに溺れる姿を見なければならないなんて。
この世界は……いったい、なんだというんだろう!


