「ね、ねえ知ってる? 体育館の用具室の怪談話! リエが幽霊見たんだって!」
「ガセだろ? どうせ」
「今度さ、学食の塩ラーメン値上がりするらしいよ!?」
「ふーん」
「植松くんがね、ついに亜里沙に告白したみたい!」
「そりゃ気の毒に……。確実にフラれたな」
必死にペラペラと話題を提供しながら、あたしは真っ直ぐ前だけを向いて歩き続ける。
凱斗の顔、恥ずかしすぎて見られないから。
天から雨が落ちる音がする。
車道を走る車のタイヤが飛沫を巻き上げる音。
傘の露先から雫が滴り落ちる音。
様々な水音が混じり合って空気を震わし、その全部が夕暮れに溶けていく。


