「い、いい。大丈夫だから」
「大丈夫じゃないだろ」
「平気だってば!」
「濡れてるって。ほら」
凱斗はあたしが濡れないように、あたしの方にばっかり傘を差しかける。
そんなことしたら凱斗がビショ濡れになっちゃう。
あんた、肩幅広いんだもん。
あたしは仕方なく凱斗に寄り添った。
しっとりと湿ったお互いの制服同士がこすれて、独特の匂いが立ち昇る。
それくらい近い距離に凱斗を感じて、胸がギュウッて切なくなる。
「向坂、顔が赤いぞ? 寒いのか?」
「う、ううん」
あたしはブンブン首を横に振った。
濡れた体は冷えているはずなのに、ちっとも寒くないの。
寒いどころか熱いんだ。
せわしなく動く心臓が指先までドキドキを運んで、顔だけじゃなく、体中が桃色に染まるくらい。


