あたしは、この気持ちを知られてしまわないように凱斗に話しかけた。
「助かっちゃった。濡れて帰るとお母さんに怒られるんだよ。スカートにアイロンかけるの面倒くさい! って」
「お前、アイロンくらい自分でかけろよ」
「自分でやったらヤケドしちゃったんだもん。太ももを」
「……なんで太もも?」
「かけ終わって『ふうっ』って油断した瞬間、うっかり自分の太ももにアイロン置いちゃったんだよ。絶叫しちゃった」
「どこをどう油断すれば、太ももにアイロン置くんだよ?」
あたし達は声を上げて一緒に笑った。
街路樹の葉先を飾る透明な雨の雫が、クリスタルみたいにキラキラしている。
濡れたアスファルトの小さな水たまりに次々生まれる、綺麗な同心円。
絶え間ない雨音も、リズミカルな鼓動も、何気ない全てが、とても素敵なものに感じられた。
「向坂、肩が濡れてる。もっと俺のそばに来いよ」
何気ない凱斗の言葉に、心臓がドキンと大きく跳ね上がった。
もっと俺のそばに来い!?
な、なんて大胆なセリフをサラッと言ってくれるんですか凱斗ってば!


