「ずるいよぉ……。ずるい……」

 そうして、ずっと凱斗の心に居座り続けるの?

 一生? あなたは一生勝ち続けるの?

「奏、しっかりして」

 ジトリと汗で湿った背中を、亜里沙の手が上下している。

「泣かないで。あたしがついてる。奏には、あたしがついてるからね」

 気がつけば、あたしは泣いていた。

 亜里沙の声を聞きながら目を閉じて、なんの光も感じられない暗闇の中で思い知る。

 後ろ姿しか見えない入江さんの大きな大きな影に、飲み込まれていく自分を。

 みじめなみじめな、無力な自分を。

 絶望的な敗北感のやり場もなく、涙を流しながら、あたしは断ち切れない糸の中で必死にもがいていた……。