「あなたは、小花に負けたんですよ」
また一歩、彼女があたしに近づいてきて、あたしもまた一歩、後ずさる。
心臓が動揺に耐えきれず、破裂しそうに動悸を打っている。
彼女の言葉を聞くのが、怖い。
聞きたくないことを、認めたくないことを、ナイフのようにグサグサと突きたてる言葉が怖い。
なのに耳を閉じることもできなかった。
そんなことを決して許さない、わずかの隙もない目で、中尾さんがあたしを見据えている。
だからあたしは肩を震わせ、小刻みに呼吸をして、容赦なく突きたてられるのを待つしかない。
「小花に負けたくせして、まだそんな大きな顔して凱斗先輩の隣にいるつもりなんですか? ねえ、負け犬さん?」
せせら笑う声を背に、あたしはバッと身を翻して夢中で駆けだした。
「奏!?」
亜里沙の叫び声を聞きながら、革靴のまま渡り廊下を思い切り走り抜ける。
耐えられなかった。あの目を見て、あの言葉を聞くのは耐えられなかった。
だから、あたしは、逃げている。
敗北感と焦燥感に打ちのめされて、心の中が嵐のように荒れ狂う。
衝動に突き動かされるようにムチャクチャ走った。
そしたら急に目の前がチカチカして薄暗くなって、ふっと意識が遠のく。
フラッとヨロけたあたしは、壁に手をついてその場にぺたんと座り込んでしまった。


