あたしは、凱斗に二度も拒絶された。
相合傘を断られたときと、美術準備室で。
もちろん、すごく悲しくて辛かった。だけど……。
それで死のうなんて、まったく考えもしなかった。
入江さんみたいに、凱斗に振られたから自殺しようなんて、微塵も頭をよぎらなかった。
命を断とうとするほどには、絶望しなかったから。
でも入江さんは、した。
したんだ。彼女は。
凱斗に振られたら生きていけないくらい、凱斗のことを、強く強く想っていたから。
「この世で一番凱斗先輩のことを真剣に好きだったのは、小花です。あなたじゃない」
中尾さんが一歩、あたしに向かって進んだ。
あたしはビクッと後ずさる。
ザリ……と、細かい石を踏む小さな音が、不思議なほど大きく聞こえた。
「凱斗先輩の隣にいるべきだったのは、本当にふさわしかったのは、小花です」
ケヤキの枝が風に揺れて、ザワザワと葉を鳴らす。
黄昏色の冷えた空気が中庭をすっぽりと覆いつくし、不安を煽る。
ここは、他には誰もいない、誰の声も聞こえない檻。
ざわめく風の音と、怖いほど綺麗なオレンジ色の空気が、耳と肌をヒリヒリと突き刺した。


