「岡田、これ追加で削ってくれる?試作で今日必要らしいから早めにやって欲しいんだけど」

どさり、とプレスしたばかりの部品が入った箱を置き、トントンと私の肩を叩いて課長は私に言った。
箱一杯の部品が目に入る。

「これ、全部ですか?」

「ああ、急にやってくれと連絡があってね。どうやら新エンジンの部品らしいよ。少し形状が違って削りにくいかもしれないが」

「分かりました。今日中に、ですね」

「悪いね、よろしく頼むよ。・・・しかしアレだな、お前、少し変わったな」

「へ?な、なにがですか?」

「ちょっと女らしくなった。なんつーか、こう、フェロモンが出てるっていう?わはは、やっぱり恋すると違うねぇ~」

ばしばしと私の背中を叩き、笑いながら課長はそう言うと、事務所の方へと戻っていった。

・・・軽くセクハラではないのか?
まあ、別に課長の下ネタなんて気にもしないけど。

しかし女らしくなったと言われるとは思わなかった。
外見は特に前と同じ、そんなに気を遣っている訳でもないんだが。

・・・フェロモンか。
そんな言葉、一生聞く事がないと思っていたけど、そうなのか、出てるのか。私から。

くんくん、と自分自身を嗅いでみるが、油臭いだけで何も変わらない。

「自分では分かるもんじゃないか」

ふむ、と妙に納得し、そしてまた気を取り直すと作業へと向かった。