休憩?
・・・って、まだ仕事中!?

壁にかかっていた時計を見ると、その針は10時を過ぎていた。

「仕事中になに電話かけてんですか!私に電話するより、自分の身体を休めて下さい!」

「休憩中だもん、どう休もうと勝手でしょ。それよりも里緒奈と話している方が安らぐ」

確かに岡田さんの声は疲れているようにも聞こえる。
メーカーの工場は24時間フル操業で常に機械が動いているから、何かと大変なんだろう。
まあ、私の声が聴けて安らぐなら仕方ない、話してやるか。私も鬼ではないのでね。

「大変だとは思いますけど、あまり無理しないで下さいね」

「あれ?いきなり優しくなった。うん、ありがとう、大丈夫だよ。なんだか嬉しいなぁ」

「普通に労わった言葉しか言ってませんけど」

「里緒奈の口から聞けるのが嬉しいんだよ。やっぱり好きな人から言われるのってパワーがあるね。知らずと力が湧いてくる」

「・・・なんですか、それ・・・」

顔は見えないけれど、なんとなく声のハリが変わったような気がした。
大した言葉じゃないのに。社交辞令な言葉なのに。

「あ、そろそろ戻らなきゃ。ごめんね、付き合ってもらって」

「いえ、別に。頑張ってください」

「ありがとう、里緒奈。・・・好きだよ」

そう言うと、ぷつり、と電話は切れた。
電話越しだけれど耳もとでそう言われた私は、電話を耳に当てたまま動けないでいる。