・・・それはいいとして。

課長に見られたのは失敗だった。
課長は飲み会になるといつも私に口うるさく言うのだ。
「結婚はいいぞ」「早く彼氏を作れ」「オヤジみたいな生活をしていて悲しくないのか」などなど。

そのたびに軽くかわしていたのだが、あんな場面を見られたらますます口撃(こうげき)がうるさくなるではないか。
ここはひとつ言ってやらねばならない。
誤解を解かないとなにかと面倒だ。

「東雲課長」

煙草を吸う課長に、後ろから声を掛ける。
振り向いた課長は、私の顔を見るなりニヤニヤっとゲスな笑顔を浮かべた。

「おお、真壁。見たぞお?岡田ちゃんと一緒に車に乗っているのを!なんだ?いつそんな関係になったんだ?」

「だからそれについてですけど、何にもないんです。ただ家まで送って貰っただけなんですってば。余計な事言いふらさないでもらえます?」

「またまた~、そう言って実は、なんだろう?ついに真壁にも彼氏が出来たか!しかもあんな格好のいい男を捕まえるとはなぁ、やるなあ!よし、今日は祝いだ、飲みに行くぞ!」

「だからどうしてそうなるんですかって!付き合ってないのに祝われても困りますって!」

必死にそう言っても、課長は周りのおじちゃん達と笑い合っているだけだ。
おじちゃん達もそれぞれに、「若いっていいなあ」「俺も恋してえなあ」などと言うばかりで、誰も信じてくれない。