「東雲(しののめ)課長だったかしらねぇ、ニヤニヤしながらプレスの人達と話しているのを朝聞いちゃって、気になって一緒に聞いたのよ。もう、真壁さんったらやるわねぇ。岡田さんなら将来安泰じゃない」

「いやだから付き合ってないですって。車に乗ったのも家に送ってくれるって言ったからで・・・」

「あら、じゃあ乗ったのは本当なのね!ああもう、楽しみねえ!結婚式は二次会でいいから呼んでね!」

・・・だからどうしてそう話が飛躍するのだ。
全く人の話を聞いていないじゃないか。

くそう、そして噂の根源は課長か!
後で何か言ってやらねば!


話を続けられたくない私は、急いでカップラーメンを食べると食堂を後にする。
そしてそのまま外の喫煙所へと向かった。

外の喫煙所には昼ご飯を早々に食べ終わったおじちゃん達がたむろって煙草を吸っている。
一斉に煙草を吸うもんだから、外なのに喫煙所の周りはとても煙い。
その中にはおばちゃんの会話にも出てきた、東雲課長がいた。

彼はお腹のぽっこりと出た50過ぎの陽気な男の人である。
仕事のとても出来る人だが、普段はオヤジギャグとセクハラすれすれの下ネタばかり話すただのおじさんだ。

東雲課長はプレス課の課長。
私が担当している研磨の仕事は、プレス課という所に配属される。
つまり課長は私の直属の上司、というわけだ。

課長は私が入社当時から良くしてくれて、私が現場で働きたいという希望をかなえてくれた人でもある。
飲み会ではなかなか私を放してくれず、常に最後まで付き合わされるのが定番になっているが、恩人でもあるからそれは仕方がない。
ちなみに彼は既婚である。
子供ももうそろそろ成人を迎えるそうだ。