番号を消そうとスマホをいじっていると、明日美の視線を感じた。眉を寄せて緊張した面持ち。話しかけていいものかためらっているようだ。

(ホント、どんくさいというかなんというか)

 気まずいなら違う話題を振ればいいのだけだろうに。
 何か話を変えようか、と香苗が視線を外した途端、明日美が口を開いた。


「香苗ちゃん、大好き」

「はぁ?」


 何を言い出したかと再び明日美に視線を戻すと、ぎこちない笑顔で香苗の腕をつかんでくる。


「友達思いで、面倒見がよくて、優しいもん。私、香苗ちゃんの幼馴染でラッキーだった」

「何を急に……」


 香苗は顔が熱くなっているのを感じながら、口を半開きにした。


(なんて照れ臭いことを口にするのよ、この子は)


 だけど、明日美の言葉にはいつも嘘がない。だからこそ、信じられる。だからこそ、こんなに胸が躍るように嬉しい。

 口元を引き締めると自然に笑みの形になる。
 

「私もそう思ってるわ。明日美の幼馴染で良かった」

「えー嘘!」

「ホントよ」

「嬉しい。嬉しいよ! 香苗ちゃん!」


 笑って電車に乗り込む香苗の後を、明日美が小走りで追いかけてくる。

 歩く速さも、移動する順番もいつも通り。香苗が凸で明日美が凹なのも変わらない。
 だけど変わったのは、お互いがここにいるのは惰性でもなんでもなく、自分たちで選んだんだってこと。

 電車は席が埋まる程度に混んでいたので、車窓から差し込む西日に目を細めながら、香苗と明日美は並んで立つ。凸凹な影を見つけて、香苗はそっとほほえんだ。



【fin.】