駅に入ったところで、香苗のスマホが鳴る。ディスプレイを見て香苗は眉をひそめた。発信者は忠志だった。
(どうしようか)
ちらり、と後ろをついてきている明日美を見る。この幼馴染の前で修羅場を演じるのはごめんだ。
でも、と迷いながら、結局は電話に出ることにした。
「もしもし?」
『あ、香苗? 俺、忠志だけど。……昨日は悪かったよ。ついカッとなって』
意外にも、忠志の声は沈んでいた。
(マジ? あ、でも、琴美かな。琴美が勝くんに何か言って、そこから何か言われたのかな)
また余計な事を、と香苗は軽く舌打ちしたが、琴美に悪気があってのことではないだろう。お節介な性分は、多分自分と近い。結局琴美とは似た者同士なのだ。
「ううん。別にもういいわ」
『怒ってない? ならさ、もう一度会わない?』
悪びれもせず忠志はそう言った。あれだけひどい言葉をぶつけておいて、よくそんなことが言えるものだ。興ざめするとはこのことだ。
(これでも私は、かなり傷ついたんだからね)
香苗は少し後ろを見る。明日美が心配そうに見つめいて、その顔にまた一つ勇気をもらう。三笠俊介よりもいい男を捕まえなくては、格好がつかないというものだ。
「……会わない。私も、やることしか興味がない男と付き合う気ないから」
『おい、香苗』
「もう馴れ馴れしく呼び捨てにしないで。あと、勝くんに伝えて。琴美のこと、大事にしなかったらただじゃおかないって」
(琴美が、自分と同じように泣くのは嫌だ)
「私の友達、泣かさないでよ?」
『香苗って』
追いすがるような忠志の声を、振り切るように電話を切った。
耳に残る余韻に少しだけ切なくなる。体目当ての言葉には傷ついたし幻滅もした。それでも好きだったから付き合っていたのだ。悲しくないわけがない。