いつもなら何も言えず黙ってしまっただろう。けれど、今日は違った。自分だって香苗を助けることができるんだと、証明したかった。


「せ、先生違うんです。私が」

「は?」

「私がサボったのを、香苗ちゃんが捜してくれたんです」


 立花は意外そうな顔をして明日美を見、まだ信用してないようにふたりの顔を見比べる。


「我妻、かばわなくっていいんだぞ」

「違います。香苗ちゃんは私の為にサボったんです。悪いのは私の方です。すみませんでした」


(言えた)


 運動したわけでもないのに、全力疾走したあとのように動悸が激しくて顔が紅潮する。


(言えた。私、自分の気持ち、ちゃんと言えた)


 興奮する明日美とは対照的に、立花は疑いの眼差しを香苗に向ける。


「……本当か?」

「先生、生徒を信用しないと嫌われるよ?」


 香苗の一言に、ようやく立花は納得する。


「分かった。疑ったのは悪かった。でが、理由はどうあれ二人ともサボったのは事実だ。放課後職員室へきなさい」

「はい」

「はーい。お固いなぁ」


 素直に頭を下げた明日美に対して、香苗は軽く舌を出す。


「松崎、お前はいつも一言余計だ」

「分かりましたって、とりあえず六時間目あるんで。先生も早く行かないと遅れますよ」


 香苗は明日美に軽く手を振って、教室の方へと戻った。残されたのは俊介と明日美だ。


(い、言わなきゃ)


 再び緊張で喉が詰まった感覚に陥りながらも、明日美は必死に声を絞り出す。


「み、三笠くん。あのっ、さっきは」

「我妻、かっこいーじゃん」

 顔をあげれば、ニカッという音が聞こえそうなほど満面な笑みを浮かべた俊介がそこにいる。謝罪の言葉も一瞬で頭からすっ飛んでしまって、明日美は呆けて彼を見つめた。
 体中の血液が沸騰しちゃうんじゃないかと思えるほど、全身が熱かった。