まるで、香苗や八重に支えられている明日美自身のようだ。でも見方を変えれば、真ん中の凹が凸を支えているようにも見える。

(いつか、私が二人を支えることも出来る?)

 現実にそんな日が来るとしても遠いだろう。だけど、もしそんな自分になれるのなら。そうなりたいと思えるようになっただけでもちょっとした変化だ。


「さ、戻ろう。そろそろ六時間目始まるよ」

「うん」


 トイレから出て二人で教室へと向かうと、教室の前に三笠俊介が居た。


「心配してきたんだよ、きっと」


 八重は明日美に耳打ちすると、軽く俊介に片手を上げて先に教室へと入って行った。
 俊介と目があって、明日美の体は金縛りにでもあったように動けなくなる。いつもより鋭い俊介の目。先ほどのこともあってか表情は笑っていない。

(怒ってるんだ……よね?)

 逃げ出したい。でももうそれは出来ない。香苗と八重、ふたりに背中を押してもらってなお逃げるような自分では痛くなかった。


「み、みかさく……」


 か細い声で、それでも勇気を出して呼びかけたそのときだ。


「あ、いた。我妻!」


 語気荒く明日美の名前を呼んだのは、俊介ではない。明日美の背後からやってきた数学教師の立花だ。なぜか香苗の腕を引っ張ってひきずるようにしている。


「立花先生?」

「お前がサボるなんてどう言うことだ。聞けば、その時間この松崎もサボってたっていうじゃないか。お前たち一体何してたんだ。どうせ松崎がなんか企んでいたんだろう?」


 明日美がサボってしまった五時間目は数学だった。普段からおとなしい明日美が自らサボったとは考えにくかったんだろう。立花はすっかり香苗を悪者にしようとしている。