香苗の指摘はもっともだ。明日美はますます泣きたくなってうつむいた。自分のしていることは八つ当たりなんだと、改めて実感する。

(やっぱり私、ダメな子だ。八つ当たりなんて恥ずかしい)

 ギュッと体を小さくして目をつぶる。
 誰にも触られたくない。自分の事なんか置物のように思ってくれればいい。傷つくくらいなら何もしたくない。


「アンタは、昨日の事気にしてるんでしょ。私と三笠俊介、何にもないわよ」

「嘘!」


 その名前を聞いて、はじかれたように顔が上を向いた。香苗と目が合い、明日美は熱くなってきた顔を抑える。


「う、うそ。見たもん。抱き合ってるの」

「誤解だって。三笠くんとはバッタリ出会っただけ。ちょっとよろけたから支えてくれただけよ」


 香苗はこともなげに言う。本当にそうかもしれない。だって俊介は、明日美に会いに家の前まで来たのだ。


「明日美がすぐ家に入っちゃったから怒られたし。誤解されたらどうしてくれるんだって。ねぇ、明日美。なんで逃げたの? 三笠くんのことが好きだから?」


 明日美は答えられなかった。

 好きだと思う。でも、自分なんて好きになってもらえない。振られるくらいなら好きだなんて言いたくない。漫画の中の女の子は、地味子と言いながらも実はとてもカワイイ。自分なんかとは違うのだ。

(でも)

 体の方が正直だった。いつだって頭に浮かぶのは俊介の顔だ。耳をふさいでも、頭の中で響く彼の声。こんな気持ち消したいのに、消せない。恋を知らなかった頃には戻れない。


「……いやだぁ」

「明日美?」


 自分が自分じゃ無くなるような感覚を初めて味わって、明日美は途方に暮れた。


「何で泣くのよ」


 香苗の手が肩に触れた途端に、涙がこぼれ落ちた。


「好き、なんて無理」

「なんで」

「だって私なんて無理。話だって上手くできないのに」