突然、ガンガンと階段を上る音が響いた、と思ったら屋上のドアが開く。サボりが見つかったのかと思って、明日美は慌てて給水タンクの影に隠れた。


「ここ?」


 風に乗って響いたのは香苗の声だ。

(どうして? 今は授業中なのに)

 明日美は身を縮めて息をひそめる。
 香苗は塵一つ逃さない勢いでまんべんなく辺りを見渡し、やがて貯水タンクの陰に座りこんでいる明日美を見つけ出した。


「見つけた。明日美」


 近寄ってきて苦々しい顔で笑う。明日美は責められるような気がして俯いた。


「……香苗ちゃん」


 俯いた明日美には、香苗の影しか見えない。声に怒った様子は無いけれど、顔を上げるのは怖かった。明日美は指先で足元のタイルをこすりながらただ下を向いていた。


「なんで逃げるのよ」

「……だって」


 香苗の声の強さに負けそうになる。責められているようで、反論一つ出来そうにない。また、逃げ出したいと思っている自分に気付いた。

 だけど今はしゃがんでいて、唯一の出口は香苗の後ろにしかない。それに香苗には『キライ』とまで言ってしまった。もう逃げる術がないと思ったら、少しばかり反論する勇気が沸いた。


「か、香苗ちゃんズルイよ」

「何が」

「何がって……それは」


 冷静に言われると何故香苗を責めているのだか分からなくなる。


「だって香苗ちゃんなんでもできるのに」

「なんでもなんてできないわよ。努力してんのよ」

「綺麗だし、はきはきしてるし」

「アンタが身ぎれいにしないだけでしょ。顔のつくりで言ったらアンタはかわいいわよ」

「そんなことないもん」

「そんなことなくない。何にもしないくせに文句ばっかり言うな!」