そんな風に、落ち着かずに自室で一日を思い返していたら、俊介から電話がかかって来た。時刻は九時半を過ぎていた。


『俺帰りに漫画渡すの忘れちゃっただろ。今駅まで取りにきたから、ついでに置きに行くよ。住所教えて』


 そんな内容で、明日美の遠慮などものともせずに俊介は行くと言い張った。

 ドキドキして、落ち着かなくて、幻聴だったかもしれないと思って部屋中を歩き回っていたら、三十分くらい後に、もう一度電話がかかってきた。

『下にいるからでてこれる?』と言われた時は、これが現実のものとは信じられず、「うん」と返事をしたものの、鏡の前で数分悩んだ。
 意を決して出ていこうとするも、両親に見つかると何を言われるか分からない。息をひそめながら階段を忍び足で降りたので、これにもまた時間がかかった。

 待たせてしまった、と玄関ドアを開けて辺りを探したとき、目に入ったのは、俊介と抱き合う香苗の姿だった。

 冷水を浴びせられたような気持ちというのをはじめて実感して何も考えられず、明日美は困惑したままドアを閉め部屋に閉じこもった。


(どうして香苗ちゃん? どうして?)


 疑問符ばかりが湧きあがりつつ、納得できる節もあった。

 二人はクラスメートで、明日美の知らない繋がりがあったって不思議じゃない。
 まして相手は香苗だ。美人でオシャレで、明るくて人から好かれる。一緒にいて、凹である自分の方を見る人なんていない。


「仕方ない、仕方ない」


 小声で言い聞かせるように呟く自分がどんどんみじめになっていくようで、頭から枕をかぶって泣いた。
 そのまま、寝たり起きたりを繰り返して、朝を迎えたのだ。