「……当然か」


 ポツリとそう吐き出して、香苗は自分が思ったよりも精神ダメージを受けていることに気付く。

 もちろん明日美が普通の態度をとると思ってたわけではない。しかし、男一人の事で崩れる関係だとも思ってなかった。

 仕方なく、一人で駅まで行き電車に乗り込む。いつも明日美と歩く道。どんくらい妹分に手を焼いていたつもりだったのに、いなければいないで自分の方が心細いとは。

 香苗は悔し紛れに、駅の傍にあった自販機を軽く蹴り飛ばした。








 やがて電車は駅へと到着する。人波にもまれながら香苗が改札から出ると、後ろから肩を叩かれた。


「おっはよー、香苗」

「……琴美」


 琴美はとてもご機嫌な様子だ。いつもに増して身だしなみには気合いが入っているし、肌も艶があるような気がする。


「琴美、あんたまさか」

「昨日さー、うふふふ。や、痛いんだね、やっぱ。でもさ、良かったよ。うち帰ったら遅いって怒られたけど」

「……アンタって」


 無邪気に照れられると気持ちが逆立って来る。そもそも、最初にそんなつもりないから一緒にきてって言ってたのはどこのどいつか。ヤラれる気があるんなら一人で行けばいいのに。

 その後も琴美の惚気は続く。やがて、香苗のわざとらしい溜息にようやく気付き、顔を覗きこんでくる。


「あれ、香苗もだったんじゃないの? ふたりで抜け出してたじゃん」

「私は振られたの」

「うそぉ」


 琴美の顔が驚きで歪む。凄くいやらしく見えて、香苗は目をそらし吐き捨てた。