(そうだよ。三笠くんが優しいのは、きっと八重ちゃんと一緒にいるからだ)

 八重は、明日美と同じ趣味がありそれを周りに隠してはいるけれど、基本的に男子と話すことには抵抗がない。同じ中学なのに認識もされてなかったといいつつ、ここ数日ですっかり仲良く話をする間柄にはなっていた。

(八重ちゃんの方がきっとお似合いだ)

 言い聞かせているうちに、マイナス思考が頭から離れなくなり、明日美の目にジワリと涙がうかんできた。


 その時だ。不意に、階下で話声がした。続けて階段を上る音がし、勢いよくドアが開かれる。


「おはよ、明日美」


 現れたのは香苗だ。スカイブルーのカットソーに白のジーンズというさわやかないでたちに、うっすらメイクの施された整った顔。明日美は一瞬目を奪われる。


「香苗ちゃん」

「うん、中々可愛いじゃん。ホラ、これ貸してあげようと思って。ストール」

「あ、ありがと」


 薄オレンジのストールが差し出される。戸惑っている明日美に、香苗は「こうするのよ」と首元に巻き付けた。


「濃い色より薄い方がアンタ色かなって思って。うん、いいんじゃない? 後は髪ね」

「あっ」


 気にしていたところを突っ込まれて、明日美は言葉を詰まらせうつむいた。香苗の方は、気にした様子もなく、カバンからヘアアイロンを取り出した。


「癖が酷い子は大変よね。このアイロンいいよ。ちゃんとまっすぐになる。こういうものだけは安物買っちゃだめよ」


 まるで美容師のように、香苗は鏡の前に明日美を座らせ、ブロック分けした髪にアイロンを当てていく。魔法にでもかかったように、まっすぐになっていく髪。十分もしないうちに、自分史上一番可愛い姿に変身した。