「いいよ。私もお節介だったかも」

「違う。あの、……ありがとう」

「うん」


 拙い言葉で、お礼だけは伝えようとする明日美を見ていると、香苗のいら立ちもほぐれては来る。

(ま、姉貴分だから仕方ないか)

 結局いつものように自分を納得させて、香苗は明日美と別れる。不思議と大きなケンカに発展しないあたり、やっぱり自分たちは凸凹だな、と思いながら。


 そこから香苗の家までの短い時間に、スマホが着信メロディを奏でた。表示を見ると琴美だ。


「もしもし?」

『あー、香苗? あのねー、さっき勝くんと話してたんだけどさ。今度の日曜、鍋パやんない?』

「なべぱ?」

『鍋パーティのこと。勝くん、ハンズで一目ぼれして土鍋買っちゃったんだって。でも一人で鍋ってつまんないって言うからー。行くって言っちゃったけど、良く考えたらさ、勝くん一人暮らしじゃん。ホラちょっと、あれだから』

「ああ」


 琴美と勝が付き合い始めたきっかけはナンパだったという。そこからすぐ友達を連れて会おうという話になり、香苗が忠志を紹介された。そんな経緯だから、二組とも付き合ってからの期間は間もない。
 琴美と勝は人目もはばからずいちゃついているように見えるが、一線は越えていないのだそう。


『ふたりきりだと、ちょっと怖いし』

「じゃあその日はちゃんと帰るのね」

『当たり前だよー。まださ、そこまでは決心つかないもん』


(あれだけベタベタしてて、その決心なかったんだ)


 内心そう思ったけれど、口には出さない。


「わかった、いいよ。私だって外泊なんてできないからね。夜は遅くとも十時には帰る、それでいい?」

『いい。忠志くんも呼んでもらって四人で。約束だよー!』

「おっけー」


 話が決まったとたんに切れる電話。けたたましい琴美の声が、まだ耳奥に響いている。

(鍋パかぁ)

 明日美のだけでなく、自分の服装もコーディネートする必要がありそうだなと、香苗は思った。