「香苗ちゃん」

「良いからじっとして。目も閉じないと危ないわよ。明日美は顔立ちは綺麗なんだから、もっと手入れすればモテるのに」

「綺麗なんかじゃ無いもん。お化粧だって似合わないからいいの。やめて。服に迷ってただけだから」


 いじけたように目を伏せる明日美を、香苗は溜息をついて見る。

(いつもこう。なんなのよ)

 何が気に入らないのか、顔をいじろうとすると明日美は拒否反応を示す。香苗にしてみれは、好意を台無しにされた気分でやる気がなくなる。苛立った気持ちそのままに、香苗は表情を硬くする。


「明日美はいつも自信ないようなことばっかり言うけどさ。当たり前じゃん。努力しないんだから。綺麗になりたいって思わなきゃ綺麗になれる訳ないじゃん」

「香苗ちゃん……」


 眉を寄せて、悲しそうな表情に変わっていく明日美を見ていると、香苗はいたたまれなくなってくる。いつだって、明日美の為って思ってやった事は上手く伝わらない。それでも、この中途半端な状態で終わらせてしまう訳にはいかない。
 むっつり黙ったまま、最後まで眉を整え、余計な産毛を剃る。化粧の仕方は教えたってやらないだろうから、と色つきのリップだけを取り出す。


「これ、もういらないからあげる。似合うと思うよ、桜色。じゃあね。帰る」

「香苗ちゃん、……ごめん、あの」


 勢いよく立ちあがった香苗の後を、おずおずと明日美が追ってくる。傷ついたのは自分の方なのに、苛めてしまった気分になってきるのが嫌で、香苗は振り切るように言った。