「行こうか。勝たち行っちゃったよ」


 そう言いながら、忠志は掌を差し出した。


「たまには俺らも手、つなごっか」


 すっと伸びた掌が、香苗の反応を待っている。

(手をつなぐとか、嬉しいかも)

 前を見ると、琴美と勝は腕を組みながら体を密着させている。

 はたから見えればうっとうしく思えるふたりだけれど、これが“普通”なのだとしたら、手をつなぐだけではちょっと物足りないのかもしれない。なんといっても忠志は大学生なのだ。手をつなぐだけで赤くなるような付き合いは子供っぽ過ぎるだろう。

 香苗は差し出された手にではなく、腕に手を絡めた。


「行こ?」

「はは。香苗、結構大胆じゃん」

「そんな事ないけど」


 忠志が嬉しそうに笑うのを見て、香苗はほっとする。

(これで正解、かな)

 うっとうしいくらい甘えた方が、自分たちより年上の世界では『普通』なのかも知れない。