「あの、家庭科のじゃなくて、家でなら。……上手に作れるかわかんないけど」
「マジ? いいの?」
「う、うん。だってあの、……うん」
(どうしよう。やっぱり話せない)
言いたいことが上手くまとまらない。上手く動かない舌に、明日美はどんどんやりきれない気持ちになっていく。人と話すのが苦手だと感じるのはこういう時だ。香苗には簡単にできることが、明日美にはできない。
「わ、私、でも」
「やった! じゃあさ。生地とか一緒に買いに行こうぜ。俺、『スクカ―』の飛田っぽいシャツ欲しいんだよ」
『スクカ―』は『スクールカースト』というアニメの略だ。学園内格差の激しい学校に、飛田という転校生がやってきて生徒会に立ち向かっていくという内容で、明日美と八重もテレビ放映の翌日には感想を語り合うくらいにはハマっている。
「えっと、でも」
「いいよ。ね。明日美? 今度の日曜買いに行く約束だったし」
戸惑う明日美を遮るように八重が言う。俊介は途端にパッと顔を明るくする。
「そっか。お前いい奴! じゃあ、時間決めようぜ。つかケータイ。番号交換しよ。ホラホラ、ふたりとも出せよ」
どこまでも朗らかに話す俊介に、ジワリと明日美の緊張もほどけてくる。
「えっと、赤外線?」
「そう。ホラ出すぞー、ビーム。早く受信しろー」
「わーちょっと待って!」



