「あれ、なんか落ちたぜ?」
ふいに、大きな声が背中から聞こえたけれど、明日美はそれが自分に向けられているものだとは思わなかった。
そのまま八重と歩き続けていると、今度は肩を掴まれる。
「おいってば」
「えっ」
驚いて振り向いた明日美は、自分の肩に乗った大きな手に体をびくつかせる。視線を上にあげると、キョトンとした表情の男子にぶつかった。
ツンツンと立った茶色がかった髪、くりっとしていてどこか愛きょうのある瞳。全体に整った顔の彼は見覚えがある。じっと見つめながら、明日美は記憶を辿った。
(この人、どこかで)
そう、確か、香苗のクラスを覗いた時に見たのだ。教科書を借りに行っただけだったのに目を奪われた。クラスの真ん中で友人と楽しそうに話す彼は、ただその場にいるだけで目立つ人だった。
「えっと」
「落し物。これアンタのでしょ」
「え……。きゃあああ!」
彼が手にもってひらひらとさせているのは、明日美が書いたブラウスのデザイン図だ。
普段他人には見せないようにしている絵を見られて、顔は真っ赤になり悲鳴をあげてしまう。
「びっくりした。きゃあって何だよ」
「ご、ごめんなさい! わ、私のです」
明日美は慌てて彼から紙を奪い取ろうとしたが、引っ張っても抜けないくらいに、デザイン図は彼の手にしっかり掴まれている。
「……あの?」
「うん、あのさ」



