「という訳だから、じゃあな」



もう一度ひらりと手を振って、僕は華やかな商店が並ぶ街中を歩き始める。



さっき簡潔に説明した瑠璃姫のことを頭に思い浮かべ、僕は拳を握った。


瑠璃姫の名前は「レティシア」といい、シュトラントの隣国、オリーヴェン王国の姫で、僕の許嫁且つ初恋の人だ。


レティシアとは、我がシュトラント王国に咲き誇る、亡き祖父母が愛したルリマツリの花園で、幼い頃よくかくれんぼをして遊んだ。


レティシアの髪色は、淡い瑠璃色で、ルリマツリによく溶け込むから見つけるのがいつも大変だったのを覚えている。


10歳の僕の誕生日以来なぜか会えていないけれど、ルリマツリの中からレティシアを見つけた時に浮かぶ、透明感のある彼女の笑顔が僕は大好きで、それを思い出しては惚れ直すのを日々繰り返している。


そんな僕の大好きな想い人が先日から行方不明になっていると、オリーヴェンからの速達の手紙を通じて知った。


それを共に見た僕の付き人が「もしかしたら、攫われたのかもしれない」と言った。


誰に?


まさか、他の国の王子!?


攫ってそのままレティシアを妻に迎えるつもりなのか!?


……そうはさせない!!!



と、まあこんな感じで焦ったわけだ。


僕はその日の夜に夢で思い出した幼い頃の彼女からの言葉をキッカケに、彼女を探す旅に出ることを決めたのだ。



だから、騎士やら付き人やらに声をかけずに1人で城を抜け出してきたのだ。