「アユ……!」



わたしを殴ろうとしていた彼女は、中谷くんのことをそう呼んだ。

しかも、顔を青くしている。



「高梨さんに言いがかりつけんのはやめろよ」



中谷くんは大きな背中にわたしを隠して、彼女たちに向けてそう言った。

中谷くんの表情はわからないけど、その声は怒ってるように感じた。



「でも、アイの彼氏がこの子のこと好きになって、アイと別れようとしてるから……」

「高梨さんはだれかの彼氏をうばうとか、そんなことしねえよ」



ふたりのやりとりを聞いて、泣いてた子の彼氏が中谷くんだということは、カン違いだとわかった。


……中谷くんと初めて話したのは、2週間前くらいだった気がする。

わたしは中谷くんのことをよく知らない。

だから、彼もわたしのことなんてよく知らないはずなのに、なんでそんなことが言えるの。