本当なら私はここへ来る獲物の中から一人を選び出して自分を喰わせるはずだった。
残念なことに喰われたいと思えるようなのには出会わなかった。こいつの体の中に入りたいって思うような気持ちに全くならなかった。
高野やナオミは運が良かったんだと少年は言った。喰われたいと思える相手に出会えるのはそう簡単なことではないということだ。
「私は、私を喰ってくれる誰かを待っていた。切られる感覚、自分の肉が誰かの口の中で噛み砕かれて飲まれる。それを見たかったのに」
「そんなことよりもっと面白いことがあると言いませんでしたっけ?」
「…………喰われたいと思うことがそうなんじゃないの?」
「そんなことくらいなんてこともないんですよ。僕のやっていることに比べたらね」
「……あなた、一体何をしているの」
「それをこれからあなたに教えていくんです」
目を細め、唇を薄く伸ばした。笑った目元にシワが寄っている。真っ正面から向かい合って顔を見たことがなかった。こうやって見てみると、少年なんかではない。かといって大人にも見えない。人の形をした不自然なモノにしか思えない。
「それに、あなたが自分で自分を喰ったらそこでみんな終わってしまう。あなたの中にいる高野さんもそこで終わりなんです」
「……私も生きられないってことなんだ」
「だから意味がないって言ったんです」

