こどもがイタズラをしてあなたのバッグに入れてしまったんだと思う。でも今手が離せないから申し訳ないけど持ってきてくれないかと相談した。もちろん交通費とお礼はすると付け加えた。
バスで15分ほど走ったところだ、さして遠くはない。そんなこともあり、すんなりと話にのってきた。
この二人は新婚だ。家はどこに建てようか、マンションにしようか、子どもを何人作ろうか、などといった話をしていた。なので、うちに来れば子どもにも会えるし、手が離せないということはまだ生まれて間もないんだと考えたようだ。
当然、うちに来たところで思っていた展開となり、まずは杓子定規な挨拶から始まり私に押されに押されてうちの中へ上がらせられるかたちとなる。
「座っていてくださいね、すぐコーヒー淹れますから」
「あの、ほんとにお構い無く『三峰』さん」
「ええ」
小さな声で子どもはどこにいるんだろう? という声が聞こえるが、そんなものどこにもいない。お前たちをここに連れ込むためのワナだ。
鼻で笑いながら二人のコーヒーの中に薬を溶かす。
「遠いところまで本当にありがとうございました。おかげで助かりました。お時間をとらせてしまってほんと申し訳ないです。……さ、どうぞ」
「お気になさらずに。お散歩気分でけっこう楽しかったですから。コーヒー、ごちそうさまです」
二人は何の迷いもなく素直にコーヒーを口に運び、
「あのう、お子さんはどこに?」と子どもを探し始めた。
「ああ、今さっきようやく静かになったところで。後ろの部屋に」
後ろの部屋を指さしてそこにいることを教えると、ふわっと笑顔になっていた。
その笑顔は、必要ない。

