結局、この女がとどめを刺した。

「あんたにはまだ早かったかな」

 意地悪に目を細め、突き刺してあるナイフをぐるりと回転させた。その拍子にナイフの合間から血が溢れた。

 女は勢いよくナイフを抜き、血が吹き出す傷口に口をつけてごくごくと飲み始めた。

 男は小刻みに揺れ、白目になりそこからも血を流し始めた。



 私はその光景を今でもはっきりと覚えている。
鮮明に、色も臭いも、空気も、場所も、話した内容さえ全部。

 頭の中に写真のように鮮やかに残されている。


 ショックだと思っているのは男が死んだことか、それとも女が奇行に走ったことか、どちらだったかは覚えていない。

 でも、そんな気持ちとはうらはらにすごく興奮し、腹の奥底が甘く疼いたのを子供ながらにはっきりと覚えていた。