「結局、主人は最後まで来なかったわね。電話も出ないってどういうことかしら。付き合わされるこっちの身にもなれってのよ」
「ママ! こんなとこでそんなこと言わないでよってさっきも言ったよ! 恥ずかしいじゃない」
「すみません」
「あなたが謝ること無いわよ。きっと浮気相手とでも一緒にいるんだわ」
「ママ!」
笑いを堪えて深々と頭を下げた。
これからしばらくしてアイツと連絡がつかなくて、心配になってきっとここへ来る。
でもそのときにはもうここには誰もいない。もぬけの殻だ。
何もない。
壁紙は人を雇って変えさせる。浴室は全てを取り替えさせて、ルミノール反応を出させない。
使ったものはみんな捨てる。これで足はつかないわ。
私の指紋も残さない。
髪の毛が落ちていても、それはまったく問題ないわ。
私の髪の毛じゃないんだから。

