「鏡には念がこもるといわれているのよ。
最初の持ち主の念が閉じ込められている。だから、古い鏡は買っちゃいけない。知らぬうちに影響を受けてしまうからね。
全身の映る姿見に両手をついて自分の瞳をじっと見続けてはいけないの。
それはね、鏡の中にいる悪霊にとりつかれてしまうから」
「恐いよ」
「あなたは大丈夫よ。守られているからね」
「じゃあ、お父さんは守られていなかったの?」
「…………そうね」
『その子もちゃんと守ってやる。お前が死んだらあたしのところへ来るんだよ。今度はこっちのやり方を教えてやる、お前のその手に残っている感覚を、お前ももう知ってるだろう』
この鏡を処分しなければこの悪夢からは逃れられないだろう。
『ほら、アユミ、鏡に布をかけなくていいのかい? そろそろ暗くなるだろう』
楽しむように笑うおばあちゃんの声が鏡の中から聞こえてくる。
この苦しみから解放されるのはいつだろう。
鏡に布をかけながらそんなことを毎日思う。
それでも気がつけば私は鏡の中にいて、次に目覚めた時には手のひらににぶい感触をおぼえている。
今回は強くひもを引いたんだ。とか、深いところまでナイフを差し込んだんだ。とか、素手で腹の中をかき混ぜたんだ。とか。
夜になるのが恐い。そして、朝目覚めるのも恐い。
死んだとしても私はあの中に捕らえられる。放してはくれないだろう。
生きていても地獄。死んでも地獄だ。
この鏡がある限りは。
KAGAMI.終

