『これからが楽しいところなんだ。お前はここで休んでな』
おばあちゃんはそう言うと私を薄暗くて冷たい部屋に置き去りにする。
でも怖くない。ここは安全な場所だってことを知ってるから。
おばあちゃんはいつでも後ろ姿しか見せない。今だって、漆黒に輝く綺麗な長い髪を揺らせて赤いワンピースを着て同じくらい真っ赤なハイヒールをはいて両手をドアのところについて綺麗な脚をにゅっと伸ばして、
ムコウガワへ行こうとしてる。それに、おばあちゃんとは言い難いほどに美しい人だ。
ムコウガワには何があるんだろう。こっちからだと白い壁に何枚かの絵が見えるだけであとは何も見えない。
私はそっちへ戻りたくない。怖い。
『お前はどこへも行かなくていいんだよ。そこにいな。目を閉じて、寝てりゃあいい』
「早く帰ってきてね」
『ああ、そうするよ』
ふわりとムコウガワへ消えていったおばあちゃんを目で追いながら私は深い眠りへと落ちていった。

