ハメごろし


「おばあちゃん、来たよ」


 私は玄関の姿見の前に立ち、全身を鏡の中に映した。



 いつの間にか泣いていて、顔中が濡れていた。鼻水は垂れ流し、髪は頬に張り付いている。



 ショートパンツからのぞく足は細くて大きめのTシャツから伸びる腕も同じくらいに細かった。




『さあ、おいで。来るんだ。いいこだね。あたしはここにいるよ。さあ、手を伸ばして、おまえの顔に触れさせてくれ』




 コクンと頷き、私は足をすりながら鏡へ近づき、自然と両腕を伸ばしていた。




『やっとおまえを守れるよ。さあ。こっちへ来い』





 両腕を鏡にべったりとつけ、手のひらを鏡の中に映る自分の手のひらと合わせた。



 冷たい。



 頬を鏡につけ目を閉じる。手のひらに暖かさが伝わってくる。お腹も腿も全部を鏡に委ねた。



『ほら、こっちを見て』




 頬をはがし、目の前に映る自分の目の奥をのぞきこんだ。