ドルチェ セグレート

「知ってるんですか?」
「あ……。知ってるっていうか、ここ……昨日行ったばかりのお店だったから」
「へぇ! じゃあ直接見たんですか? やっぱりイケメンでしたか?!」

誌面に大きく載っているのは、爽やかに白い歯を覗かせて笑顔を向ける、昨日接客をしてくれた方の彼だ。

キラキラとした目を向けられ、たじろぎながら、もごもごと答える。

「まぁ、写真通り……だったかな?」
「そうなんですねー! いいなー!って、どうかしました?」

志穂ちゃんへの対応もそこそこに、私の意識はまだ雑誌にあった。
それに気づいた志穂ちゃんは、ズイッと私の顔をのぞき込む。

この子の大きな目でジーッと見られると、なんか上手くかわせなくなっちゃうんだよー!

心の中で『そんなに見ないで!』と叫び、ようやくフイッと目を逸らして口早に言った。

「あ、いや! もうひとりパティシエの人いたから、その人は載ってないのかなぁ……って」
「そうなんですか? でも、やっぱりこういうのに取り上げられるのは“イケメン”に限るんですよー!」

志穂ちゃんはニンマリと口角を上げて、雑誌を両手に拾い上げた。

確かに、カッコイイとか可愛いとかで注目を集めようとするのが普通のことなんだろうけど。
でも、あの大きい人だって、別に悪くなかったと思うんだけどなぁ。

「このルックスで、しかも、二世パティシエらしいですし。注目されて当然ですよねー」

穴が開いちゃうんじゃないかってほど、ジーッと雑誌を見ながら志穂ちゃんがそう説明した。
それを聞いて、『へぇ、そうなんだ』と思うくらいで、やっぱり私はなんだかもうひとりのパティシエのほうが気になっていた。

二世で顔も良くて、ってことだから雑誌に多く取り上げられてるのかな。
だったら、今までどこかの雑誌で、ランコントゥルのパティシエふたりが並んだ誌面があったのかも。

無意識にそれを見たことあって、それで彼をどこかで見た気がするって錯覚してるのかもしれないな。

少し違う気もするけど、そう納得した私は今朝食べたガトー・オ・ショコラの味を思い出す。

すると、自然と頬が緩んで、まだ幸せの余韻を感じることができた。

「河村さんって、スイーツ好きなんですか?」

そこに、こちらを見上げる視線が刺さる。