ドルチェ セグレート

驚いたように声を漏らす志穂ちゃんに、私も後ろで同調する思いだ。
どういう意味だろう、と真相が気になり、神宮司さんに注目する。
 
彼は私たちの視線を浴びながら、涼しい顔のまま片手を顎に添え、開口した。

「たぶん、すごい頑張って、弱みを見せてないだけだと思うよ」
 
そう説明しながら、初めは志穂ちゃんを見、流れるようにその視線は私へとたどり着く。
ぱちりと目が合ったら、神宮司さんは形のいい唇をニッと釣り上げた。

「めいっぱい強がってるの見てると、守ってやりたくなるけどね」
 
信じられない。
 
私はそれしか思うことが出来なかった。
だって、そんなふうに面と向かって言われるなんて全く考えてなかったから。
しかも、それを他の人がいる前でだなんて。
 
気持ちが高揚したまま、頬を赤くする。
言葉を出せずに突っ立ったままでいると、神宮司さんがさらに驚くことを志穂ちゃんに言った。

「余計なお世話かもしれないけど、もうちょい言葉を考えないと。明日香ちゃん(彼女)が誤解されるからね」
 
志穂ちゃんには申し訳ないけれど、正直、今私はすごくうれしい。
 私を悪く思わないでくれたことも、志穂ちゃんを前にして私を庇うようなことを言ってくれたことも。
 
あの日から、期待も出来ていなかったぶん、こんなことで舞い上がるほどうれしい。
 
顔に熱を帯びた私を見た志穂ちゃんは、私よりももっと赤い顔をしてくるりと方向転換した。
激高した様子の彼女は、ひとこと「帰ります!」と残して店を出て行こうとする。

あからさまな態度に、私は目を剥いた。
すぐに我に返り、志穂ちゃんを呼び止める。

「え! ちょっ、志穂ちゃ……!」
 
それでも足を止めることはおろか、振り向く気配もない背中に私は焦る。
数歩追いかけつつ、気まずい思いで後ろを振り返った。

「すみません! 私、明日休みなので、改めます」
 
一方的にそう告げると、店内に神宮司さんを置いて志穂ちゃんを追いかける。
 
志穂ちゃんに追いつき、道中なんとかなだめ歩く。
こっそりと、心の内では先ほどの神宮司さんの言葉で浮足立っていた。
 
入店した時の可愛い子の存在をすっかりと忘れて――。