止めようにも、そこまで必死に隠すようなほどの内容でもないし、なんなら事実だからなにも言えない。

固まった私なんかお構いなしに、志穂ちゃんは流暢に話を続ける。

「あ、あと、寝坊して本社に行ったときは、服が後ろ前だったんですよー。面白いですよね?」
 
えぇっ! その話までしちゃう?! 
それは、志穂ちゃんだって諏訪さんから聞いた話で、実際に見てないよね? 
なんであたかも自分がそこに存在してたかのように言っちゃうわけ?!
 
暴走する部下に呆然とするだけで、ひとことも発せない。
 
頭の片隅で、『ああ。沙月ちゃんが言ってたことはこういうことかも』なんて、どこか冷静に思っていた。
それでも、こんな仕打ちを受けたって怒り心頭するわけでもなく、こんなふうにびっくりするだけ。
 
ただ、ひとつ。今の私は、目の前に神宮司さんがいるという事実が……。
彼が、今の話を聞いて、幻滅したのではないかということだけが気になる。
 
恐る恐る神宮司さんの顔を窺うと、目を丸くして志穂ちゃんを見つめていた。
 
ああ。やっぱり、ガサツとかズボラとか、そういうレッテル貼られちゃったかも。
第三者の証言までされちゃうと、もうダメ押しだ。
 
心の中で項垂れていると、可愛らしく首を傾げる志穂ちゃんの、鼻にかかった声が耳に届く。

「私は、あまりひとりで出掛けたり出来ないタイプなんですけどー。河村さんは強いから、ひとりでも生きていけそうだと思うんですよね」

……なるほど。つまり、こういう女の子がモテるのですね。
か弱そうな女の子……そりゃ私が男でも、志穂ちゃんみたいに可愛い仕草や声を出されたらグラッといっちゃいそうだ。
リアルに勉強になりました。

自分との差に打ちのめされ、灰のように立ち尽くす。
すると、一拍おいたあとに、神宮司さんの言葉が店内に静かに響いた。

「そう? 俺は逆だと思ってたけど」
「……え?」