その間にも、志穂ちゃんは店頭に立っている神宮司さんの下に一直線だ。
仕事では見られない機敏さに、呆れを通り越して感心してしまう。

「こんばんは。いらっしゃいませ」
 
営業スマイルなのかな。穏やかに微笑む神宮司さんだけど、どこか余所余所しく感じる。
それって、ただの私の心境の問題?
 
少し離れたところでふたりを眺める。
すると、彼の視線がこちらに向いて、心臓が一瞬止まった。

「明日香ちゃんも。この時間ってことは、また仕事終わりで来てくれたんだ?」
「は……い」
 
背筋を伸ばし、小さく頷く。

声が震えてしまっていること、ふたりに気づかれたかな? 
だって、いきなり名前を呼ぶから……。

ドキドキと胸を高鳴らせながら、表情には出さないように涼しい顔を演じる。
当然、神宮司さんのことは直視できないから、ひたすらショーケースの中を注視していた。

「キミのとこの店長は、パワフルっぽくていいね。頼りがいがあるだろ?」
 
今日は、女性店員が不在なのか、神宮司さんがそのまま接客をしてくれる様子。
ショーケースに腕を乗せ、世間話を志穂ちゃんに振った。
業務的な内容ではない声掛けに、志穂ちゃんはうれしそうに半音上げて答える。

「はい! いつも元気ですし、面白いですし」
「へぇ。いいね、一緒に働けて。本気で羨ましいよ」
 
何気ない神宮司さんの返しだと私は思った。
だけど、どうやら志穂ちゃんは違ったようで。

斜め後ろから見える横顔が、一瞬ムッとしたのがわかる。
 
もしかして、お気に入りの神宮司さんが、私と働いてることが羨ましいって言ったから? 
まさか、そんなことで? 社交辞令でしょう?
 
内心ハラハラとして見守っていると、志穂ちゃんはさっきまでと同じように笑顔に戻る。
でも、なんか裏がありそうな笑顔に、完全に安心しきれない。
 
すると、予感は的中。張り付いたような笑顔のまま、志穂ちゃんはとんでもない話をし始めた。

「本当、私の周りにいないタイプなので、新鮮です。この前も、憑りつかれたようにキーボード叩いたり。なんか、行動が男の人っぽいっていうか」

完全に私をネタとして話をする志穂ちゃんに、唖然とする。