ほどなくして到着した、私のワンルームのアパート。
特別、天井が低い作りとかではないけれど、神宮司さんが立つと、見慣れた部屋が狭く見える。

「あ、そうだ。コレ」

急な展開に、少し恐縮気味の神宮司さんがケーキ箱をくれた。

「今日は、好きそうなのが入ってないかもしれないけど」
「えっ。いいんですか? なにが入ってるんだろう」
「チーズケーキ」
 
両手で受け取った箱に視線を注ぐと、最近縁のある『チーズケーキ』と言われて目を丸くした。

「どうかした? チーズ、苦手だった?」
「いえ。好きです。せっかくですし、一緒にどうですか?」
「俺はいいよ。いつも食べてるようなもんだし」
 
お皿とフォークをテーブルに出し、貰った箱をそっと開ける。
中にはケーキが三個。この間食べたのと同じものがふたつと、スフレチーズっぽいものがひとつ。
迷いながら、ふたつある方のチーズケーキを取り出した。

「そういえば、チーズケーキは唯一、母が作ってくれるケーキだったんですよ。でもふたりだと食べきるの大変で」
 
立ち膝でお皿に乗せたケーキを見つめ、また昔を思い出す。
なんだか気が緩んでしまったのか、普段は閉ざしておいている感情が自然と出てきてしまう。
 
それにハッと気づいて動揺し、立ったままの神宮司さんを慌てて見上げた。

「あ……。その、両親は離婚してて。弟と私は別々に引き取られちゃって。でも、もう弟も私も自立してますし、みんな自由に楽しくやってますから」
 
別になにを言われたわけでもないのに、言い訳がましい言葉を次々と並べる。
 
神宮司さんをここに呼んだのは、私のこんなジメジメした話を聞いてもらうためじゃないのに! 
部屋にあがって貰って、ケーキまで貰っておいて、『座ってください』のひとことも言わずに自分の話って……。
ダメだ、こんなんじゃ。女子力云々より、人間力の問題だ……。

「すみません。また私の話になっちゃいました……。神宮司さんの話をって言ってたのに……」
「いい。また今度で」