「……仕事で、なにかありました?」
 
年下であろう私が、偉そうに……とも思ったけど、そんなこと言ってられない。

あの日、思うことがあった。

彼は私に、頑張りすぎてるんじゃないかと言った。
それは、似てるという神宮司さんも同じで、誰かに寄りかかりたいのかな?って――。

本当は、そのときに、同じように言ってあげたかった。
でも、言えなかったから。

「私が、仕事の役に立てるだなんて思ってません。けど、聞くくらいならできるから」

拙い言葉と、不器用な気持ち。

そんなものでも、あの瞬間に心を軽くしてくれた神宮司さんのように。
少しでもいい。私も、彼の心の負荷を軽減させたい。

その思いが伝わったのか、ようやく神宮司さんは顔を上げた。
目と目が合うと、面食らったような顔でジッと見つめられる。

「私、これ以上、好きなものを苦い思い出に変えたくないんです」
 
ニコリと微笑みかけ、手にある紙袋を持ち上げる。
 
この美味しいマドレーヌが、涙の味になるのはいやだ。
出来ることをせずに、後悔の気持ちと一緒にこのお菓子を飲み込んでしまったら、この先ずっと、今日のことを思い出してしまう。

「……助けてくれる気がしたんだ」
「え?」