いつしか和らいだ空気のなか、地下鉄に乗る。
降車してからも、私はケーキの話を続けた。
「私、昔からケーキとか大好きで。小さい頃って誕生日とか、なにかお祝い事のときにケーキを買ってもらうことがほとんどじゃないですか」
密集した住宅街だけど、時間が時間だ。静寂に包まれている。
自分たちの歩く靴音を遮るように、私は続けた。
「でも、大人になって、自分でそういうものを買えるようになった頃には、それがちょっと変わったっていうか」
弱々しく笑い、目を細め、手にあるマドレーヌが入った紙袋を見た。
思い出すのは高校時代の誕生日。
その時はマドレーヌじゃなかったけど、自分のお小遣いでケーキを買った。
今日と同じように、自分しか食べないのに仰々しく箱に詰めてもらって。
在りし日の自分を思い浮かべ、力なく笑顔を浮かべる。
「いつの間にか、うれしいことがあったときよりも、辛いことがあったときの方が、スイーツ食べてる気がするんですよね」
この間もそうだった。なんだかわからないけど、神宮司さんには、普段話しづらいようなことも言えてしまう。
正確には、前回は勢いで元彼とのことを口走っただけだけど、今回はたぶん違う。
あの日、あんな恥ずかしい話でも、一度も笑うことなく真剣に聞いてくれたから。
『自分を甘やかせ』って言ってくれたから。
「今でも覚えてる。両親がケンカしてて、その日は私の誕生日で。家にいるのも居た堪れなくて、外に飛び出して……たまたま入ったお店でケーキを買ったんです」
あの日、ショーケースの中で一番美味しそうだったオペラ。
帰り道の途中の公園で、ひっそりとひとりで頬張った。
想像以上に美味しくて、嫌なことを忘れようと夢中で食べた。
そのケーキのおかげで元気が出た。そう思ったのに、自分でも予想外だった。
頬を伝った涙が、ケーキの上に落ちていったのは――。
降車してからも、私はケーキの話を続けた。
「私、昔からケーキとか大好きで。小さい頃って誕生日とか、なにかお祝い事のときにケーキを買ってもらうことがほとんどじゃないですか」
密集した住宅街だけど、時間が時間だ。静寂に包まれている。
自分たちの歩く靴音を遮るように、私は続けた。
「でも、大人になって、自分でそういうものを買えるようになった頃には、それがちょっと変わったっていうか」
弱々しく笑い、目を細め、手にあるマドレーヌが入った紙袋を見た。
思い出すのは高校時代の誕生日。
その時はマドレーヌじゃなかったけど、自分のお小遣いでケーキを買った。
今日と同じように、自分しか食べないのに仰々しく箱に詰めてもらって。
在りし日の自分を思い浮かべ、力なく笑顔を浮かべる。
「いつの間にか、うれしいことがあったときよりも、辛いことがあったときの方が、スイーツ食べてる気がするんですよね」
この間もそうだった。なんだかわからないけど、神宮司さんには、普段話しづらいようなことも言えてしまう。
正確には、前回は勢いで元彼とのことを口走っただけだけど、今回はたぶん違う。
あの日、あんな恥ずかしい話でも、一度も笑うことなく真剣に聞いてくれたから。
『自分を甘やかせ』って言ってくれたから。
「今でも覚えてる。両親がケンカしてて、その日は私の誕生日で。家にいるのも居た堪れなくて、外に飛び出して……たまたま入ったお店でケーキを買ったんです」
あの日、ショーケースの中で一番美味しそうだったオペラ。
帰り道の途中の公園で、ひっそりとひとりで頬張った。
想像以上に美味しくて、嫌なことを忘れようと夢中で食べた。
そのケーキのおかげで元気が出た。そう思ったのに、自分でも予想外だった。
頬を伝った涙が、ケーキの上に落ちていったのは――。



