ドルチェ セグレート

待つと宣言した私は、早速閉店したランコントゥルの店先に立っていた。

看板や店内の照明も最低限に落とされて、薄暗い中ジッと動かずにいた。
自分を抱きしめるようにそっと肘を抱えると、手にしていた紙袋がカサッと音を立てる。

「なにしてんの?」
「わ! あ、ここ邪魔でしたか? すみませ――」
 
突然、カランとドアチャイムが鳴るや否や、神宮司さんが現れる。
その表情は仄暗くてあまりはっきりとは見えなかったけど、真顔に感じて小さく肩を上げて謝った。
 
どこか移動しようと踵を返そうとしたときに、神宮司さんが私の腕を掴む。

「いくらなんでも冷えるだろ。外で待つくらいなら中にいていいから」
 
腕を引かれて店内に連れられる。
後ろ姿を見上げながら、彼の優しさに胸が締め付けられた。
 
神宮司さんは、そのまま厨房へと戻ってしまった。
私はこそこそと、店内の猫足ベンチの隅にちょこんと腰を下ろす。
 
奥に繋がるドアの小窓から、時折遥さんと神宮司さんの姿が見え隠れする。
 
ここのパティシエは、もしかしてふたりだけなのかな? 
思い返せば、他にパティシエらしき人を見たことがない。
 
店内に並んだままの焼き菓子と、空っぽになったショーケース眺める。

決して大きくはないお店だから、商品数も限られてる。
とはいえ、このお店に並べるだけの量をふたりだけで作ってるっていうの? 
それってこの世界では普通なの?
 
扉一枚越しで仕事をしている神宮司さんの姿を想像し、まだまだ知らないことが多いことを痛感する。
 
全部なんて欲は言わないから、もう少しだけ、彼のことを知りたい。
 
願うようにそんなことを心の中で呟くと、ガチャッと見つめていた扉が開いた。