ドルチェ セグレート

今のところ、独りということに抵抗はない。
仕事もしてるし、忙しいし。結婚願望も別に特別強いわけじゃないと思うし。

ただ……やっぱり、付き合っていた相手とダメになったら、独りということに凹むし、ちょっと将来が心配になっちゃう。

しん、とした部屋でどんよりした気分を上げるため、せっかくのご褒美ケーキだというのに雑に二口、三口と頬張った。

いや、でもどっちみち、あンの元彼との将来なんて考えられないし! 
結婚するなら、もう少し私のこと理解してくれるような。
できれば、共通の趣味がひとつでもあったらきっと楽しく過ごせるはず! 

……なんて、私自身、そんな〝趣味〟って言えるほどのものはないんだけど。

「はぁ……」

力ない溜め息を、食べかけのチーズケーキに落とす。

甘いものを食べるのが趣味っていうのも……。
それに毎回付き合ってくれるような男の人には生憎出会ったこともないし……。

そんなことを考えて、ふと、頭に浮かんだのは後から現れたパティシエの男の人。

ああいう、見た目が男らしい人でも、こういうスイーツを作ったりするんだよねぇ。
このチーズケーキも彼が作ったのかな?
身体も大きかったから、手とか指とかも大きくてゴツそうだけど、繊細なものを造り出せるんだ。

まじまじと、ケーキを観察するように回し見る。

それにしても、あの人……。私、どこで見たんだろう? 

他人の空似で、別の人と勘違いしてるのかなぁ。
大体、ランコントゥルへ今まで行った時には、男の人に接客してもらったこともなかったはずだし。
パティシエのふたりと対面したのは今日が初めてだから、前回買いに行った時ではない。

「うー。わからん……」

頭を抱えてみても、やっぱり答えは出てこない。

そのうちチーズケーキも平らげて、そのままぱたりと眠りについた。