「私、初めは遥さんがいいなぁって思ってましたけど、今は慎吾さんが気になってて。男らしくてイイですよね? 河村さんは、そう思いませんか?」
 
無意識に、視線を手元から志穂ちゃんへと向ける。
刹那、鋭い目に全身が硬直した。
 
その目は本当に一瞬のことで、今はすでにいつもの愛らしいものに戻ってる。
けれど、ゾクリと背筋を震わせられた感覚が、まだ身体の芯に残ってる。

ざわざわと心地悪い感覚が胸のあたりで居座って、息も落ち着いて出来ていない気すらした。

「河村さん、なんか親しそうでしたし。彼の連絡先とか知りませんか?」
 
人差し指を唇に当て、天井を仰ぐようにしながらチラリと目を向けられる。
パチッと視線がぶつかってしまうと、ギクリと肩を小さく上げた。

「あー……ううん。本当、親しいわけでもないから」
 
さりげなく目を逸らしつつ、軽く手を横に振って笑う。
 
チクリチクリと鈍い痛みが心を刺激して、これ以上この話題が続いたらうまく笑うことができなさそう。

笑顔を作るのも限界に感じたときに、志穂ちゃんがドアノブに手を掛けた。
それを視界の隅で感じると、ホッと胸を撫で下ろす。

「そうですかぁ。じゃ、今度河村さんがお店に行った時にでも、さりげなく私のことどうか聞いてみてくれますか?」
「……え? 私が?」
「河村さんしか頼れる人いないじゃないですかー」
 
ドアを開きかけたかと思いきや、スタスタと私の目の前まで詰め寄ってくる。
猫なで声で言うと、懇願の眼差しを向けられた。

「う……。き、聞けたらね……」
 
その何とも言えない押しに、うっかりとした返答をしてしまう。
しまった!と後悔した時にはもうとっくに手遅れ。
志穂ちゃんは「ありがとうございまーす」と、にんまり満足そうに目を細めた。