「はぁ……恋しいなぁ」
 
少し店内が落ち着いた夕方五時過ぎに、休憩室に足を踏み入れた瞬間に零す。
やや乱暴に椅子を引っ張り出すと、ドサッと腰を下ろしてテーブルに頬をつけた。
 
どういうわけか、今日はお客さんが途切れなくて、自分の休憩を後回しにしていてようやく今休めたところだ。

「河村さん、いい人見つかったんですか? もしかして、諏訪マネージャーとか?」
 
出入り口に後頭部を向け、完全に気を抜いていた私はその声に飛び起きる。

ドアを開けてきたのは志穂ちゃん。
口元を弓なりに上げ、ニヤニヤと冷やかしに似た目をこちらに向けていたから即座に否定する。

「いや、なんで諏訪さんが! ていうか、違うし!」
「えー? じゃあ『恋しい』って誰がですか?」
 
そこを突かれると、なんとも答えにくい。
なぜなら、その〝相手〟は人間ではなく……。

「えーと、その、ケーキが……」
 
もしかして、見え透いた嘘だと思われたかな……?
 
しどろもどろと答えてしまった自分を、客観的に見たら、と考えて不安になる。
 
でも、本当にそれは事実。
恋しいと思ったのは、この間の日曜日に神宮司さんから貰ったケーキのことだった。
 
嘘でも本当でも、どちらにしても、その答えは普通の回答ではなかったと自負してる。
だから、志穂ちゃんを直視できなくて視線を泳がせた。

「本当に好きなんですね、甘いもの。よければ、テーブルの上のお菓子どうぞ?」
 
さすがの志穂ちゃんも、私の答えに吃驚した顔で固まって、同情にも似た顔でひとつ息を吐いてそう言った。
私は、溜め息交じりに指し示された方向に目を向ける。

「あれ? これって」
 
思わず手に取って瞬きをした。