ドルチェ セグレート

ランコントゥルに向かったときとは打って変わって、重い足取りで地下鉄を降りる。

なんだろう、この疲労感は。だめだ。あんまり深く考えないようにしよう。楽しいことだけ考えよう。

俯いて歩く自分に言い聞かせ、グッと顔を上げる。

大丈夫! 今のところ、体型維持出来てるし! 
好きなものを我慢するよりも、それを食べれるように努力すればいいだけのこと。運動したりね!

前向きに思考を持っていくと、次第に楽しみな気持ちが膨らんでいく。

ケーキももちろんだけど、クッキー貰ったんだよね。
ランコントゥルのクッキーは初めてだから、すごく楽しみ。

ひとりで歩いていながらも、つい、にんまり顔をしてしまう。
そして、クッキーを貰ったということを再確認してハッとした。

私の意思とは違ったとはいえ、結局受け取ってしまったわけだし……。
連絡先も知ってるんだから、やっぱりひとことお礼くらいした方がいいよね?

ぴたりと足を止め、紙袋の口から覗くクッキーを見つめてそう思う。
ポケットから携帯を取り出して、こっそりと登録済の神宮司さんの番号を表示させた。

電話……は、無理だ。話せる自信がない。

すぐにそう結論付けると、電話番号からメッセージを送ることに即決した。
画面に意識を向けながら、ゆっくりと家までの道のりを歩いていく。

どのみち、長い文面は送れないから、簡潔に、短く。

【今日はクッキーを頂いてしまってすみません。ありがとうございました】

そう入力したメッセージを送信し、ポケットに携帯を入れようとした矢先に着信が来た。
声こそ上げなかったものの、あまりにタイミングが良すぎて心臓が口から飛び出そうなほど驚いてしまう。

『まさか』と思いつつ、着信主を確認してみる。

「……うそ」