ドルチェ セグレート

「えっ? あの、これは……?」
「サービス。この時間だとケーキは選べるほど種類ないし、お詫びってことで、友達にもあげて」
「えぇ! いや、そんなつもりじゃ」

そういうことを期待して、閉店間際に来たのだと思われてたり?

不意にそんな考えが頭に浮かぶと、ますます手なんか伸ばすことが出来ない。

「わ、悪いので」
「わぁ! ありがとうございますっ」

困惑しながらやんわりと断ろうとする傍ら、隣の志穂ちゃんがいつの間にかこちら側の会話に入る。
さらには、勝手に袋を受け取ってしまって目を皿にした。

ちょっと! なに勝手に受け取っちゃってるのー! 
手にしてしまったら、もう受け取るしかないじゃない!

志穂ちゃんの驚くべき行動に呆気に取られていると、神宮司さんはそのまま奥へと消えて行ってしまった。

志穂ちゃんの会計が終わり、ランコントゥルを後にする。

真っ暗な夜道にぽつぽつと光る街灯。
それを順に辿るように、私と志穂ちゃんは来た道を引き返していた。

「そういえば志穂ちゃん、足、大丈夫?」
「はい。なんとか大丈夫みたいですー」

帰路はさっきみたいに急ぐ必要はないから、志穂ちゃんの歩調に合わせる。
心配になって声を掛けて足元に目を向けたけど、どうやら本当に平気そうで安心した。

地下鉄まで戻り、ホームに立つ。ひんやりとした空気が頬を撫でていき、震えた肩を少し上げた。

「河村さん、知り合いだったんですか? あの背の高いパティシエの人と」
「えっ。いや、知り合いというわけでは……ない、かな?」

突然切り出す志穂ちゃんが、どこか鋭い視線な気がして背筋を伸ばす。